トップページ 特集一覧 ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?
ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

前回、髙橋百合子(ecomfortHouseを運営するイーオクト株式会社代表)が語るオリジナルブランド“STYLE JAPAN”に込めた100年後に繋ぐ想いを、お届けしました。

そのSTYLE JAPANの大切な商品のひとつである「香遣」。今回は高橋百合子の「こんな蚊遣りをつくりたい!」という想い、そしてその想いをカタチにしてくださったデザイナーの小泉誠さん、昌栄工業の昌林賢一さん、おみねらたんの小峰正孝さんにSTYLE JAPAN「香遣」誕生までの舞台裏を聞きました。

ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

「私の暮らしから出たニーズを、小泉さんが見事にデザインして アウトプットしてくれた」(イーオクト 髙橋百合子)

Q. 「香遣」が生まれたきっかけを教えてください。

イーオクト髙橋百合子:外の空気のなかにいるのが好きで、家ではテラスで過ごすことが多く夏の蚊対策、「菊花線香」(STYLE JAPANのロングセラー商品)を使っています。以前はベトナムで手に入れた楕円形のスチール製蚊遣りを使っていましたが、もっと使いやすくスタイリッシュなものがほしい。家の中とテラスを行ったり来たりするので、軽くて持ち運びしやすく、落としても割れず、線香が入れやすく、和室にも洋室にも合うデザインの蚊遣りはないかと、日本から海外まで探しましたが、ありません。

そんな時に内田繁さんのパーティーで久しぶりにデザイナーの小泉誠さんにお会いし、その瞬間に小泉さんにお願いしよう!と決め、お話し、すぐに共感してくださって、その場で話がまとまりました。自分の中に思い続けていると必ず答えが向こうからやって来ます。これは私の人生で何度経験したかわからないくらい、よくあることです。

私がいつも大切にしているのは、自分の「暮らし」のなかで生まれる「考え」が起点だということ。ただデザインがかわいいとかキレイという人の好みで判断されるものではなく、その存在の意味が起点、不要なモノは不要、私たちの存在の意味でもあります。 「香遣」も私の暮らしから出た考えを、小泉さんが見事にデザインしてアウトプットしてくれました。

ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

「香遣」の発案は髙橋自らの暮らしがきっかけ

Q.商品ができあがるまでに苦労した点はありますか?

髙橋:小泉さんが把手に籐巻をしたいとおっしゃったのですが、探せども籐巻職人と出会えず・・・。そんな時に、弊社スタッフが籐巻職人さん知ってる!ということで、飛んで行ったのが、スカイツリーのふもと、おみねらたんの小峰さんです。

急須の籐巻がよくゆるんでとれている印象があったので、「籐がとれたらどうすればいいですか?」と聞いたら「とれません!」とはっきりと言い切られたその自信あふれることばには心底驚きました。でも確かに籐巻が取れたという声は今まで一度もないのです。

「日本はたくましい ものづくりをしっかりやりながら、経済を回して来た」(おみねらたん 小峰正孝さん)

ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

東京タワーのふもとにお店を構える籐工芸のおみねらたん

Q.髙橋は小峰さんが「(籐巻は)とれません!」とはっきりおっしゃったことに驚いたと言っていました。

おみねらたん 小峰さん:もちろん絶対にとれないというわけではありませんが(笑)、なるべくとれないように工夫して丁寧に巻いています。籐は巻く前に水で濡らし、乾くと締まってとれにくくなります。

(急須の籐がよくゆるんでいるのは)大量生産の時代に技術よりも、価格の安さを求めたことで、技術が追い付いていない海外からの輸入品が世の中に多く出ていたからです。籐製品が安くなり身近になったことはよかったのですが、丁寧につくられた国産のものは衰退してしまいました。今では墨田区でも籐工芸をやっているのはおみねらたんだけ。関東でも10軒もありません。でも海外製と競うのではなく、別物として自分たちの工芸品を作り続けています。

日本はたくましい。ものづくりもしっかりやりながら、経済を回して来てここまで来ましたから。本当は人を育てて一人前だと思います。だから私はいつまでも一人前になれないで終わってしまうかもしれません。血縁でなくてもやりたいという若い方には技術を伝えていきたいと思っています。

デザインは人との出会いから始まる 「“何をつくるか?”よりも“誰とつくるか?”」(デザイナー 小泉誠さん)

ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

「吊るす」機能は空間デザインも手掛ける小泉誠さんのアイデア (写真は小泉誠さん撮影)

Q.香遣を製作した時のことを教えてください。

デザイナー小泉誠さん:ものづくりで大切にしていることは「何をつくるか?」の前に「誰とつくるか?」ということ。ものづくりでよくあるのは、デザインが出来上がった後に、数社に相見積もりをとって安いところに発注するようなやり方。でもこのやり方をすると、ものづくりの現場は苦しくなります。

作り手によって形も、作り勝手も、作り方も全く違います。香遣をお願いした昌栄工業の昌林さんはとても情熱のある人。「技術」だけでなく「心意気」があったからこそ昌栄さんにお願いをしました。

大まかな形は決めましたが、細かなディテールは決めずに技術や製造に無理なく、機能がよりよくなるものを一緒に探して、今の「香遣」が出来上がりました。

「言われてつくるのと、一緒に考えてつくるのは違う 他の工場でもできますが、同じものにはなりません」(昌栄工業 昌林賢一さん)

ものづくりは人の「想い」「出会い」から始まる 東京・墨田で伝統工芸技術を用いて製造されている「香遣」。その背景にある4人の“想い”とは?

抜き絞りという加工はひとつひとつ手作業によるもの

Q.香遣の製造について教えてください。

昌栄工業 昌林賢一さん:香遣の本体は“絞り”という技術を使い、一枚の板を成形して作っています。通常プレスはもっとスピーディーに作れるのですが、香遣は傷つかないように、ひとつひとつ目視で確認をしながら、時間をかけて丁寧に作っています。

Q.絞り加工は、他の工場ではできない技術なのですか?

他の工場でもできます。でも違う工場で作ると違うテイストのものができます。僕たちは 小泉さんのテイストを考慮してものづくりをしています。小泉さんから依頼された訳ではありませんが、こうしたいのかなと想像して作ります。

例えば、蓋もまっすぐに見えるけれども、実は少し膨らみを持たせています。これはまっすぐだと人の目には凹んで見え、貧相な印象になってしまうからです。これを少し膨らませると真っすぐ美しく見えます。これは小泉さんからオーダーがあったのではないのですが、僕がこうした方がいいだろうと思ってやりました。言われて作るのと、一緒に考えて作るのはやっぱり違います。

手間がかかっても、より製品にとってよいだろう思うことを追求しています。なんで僕たちこういうことしちゃうんだろうと、おみねさんとも話していたんですが、結局「血かな」ってことで収まりました(笑)

「香遣」の限定色BLACKが登場

【限定】STYLE JAPAN×wanderout 香遣/かやり BLACK

ecomfortHouseとwanderoutだけの限定色BLACK(数量限定)

Q.今回、初めてwanderoutといっしょに新たな色と質感の香遣をつくることになりました。

イーオクト 髙橋百合子:オリジナルの依頼はさまざまいただきますが、どんなものでもお受けするわけではありません。小泉さん同様、誰とつくるか、その思いを共有できるか。

wanderoutのみなさんは、香遣のデザイン、使い道、良さを明確に言葉にしてくださいました。また香遣は元々、私の家のテラス=アウトドアと室内の両方で使うことを想定して作ったもの。アウトドアにおける洗練を追求しておいでのwanderoutはいいパートナーだと思いました。小泉さんも協力してくださって、3社チームで侃々諤々、繰り返しの試作を重ねながら、気持ちをひとつに完成までこぎつけました。鉄の黒とは全く違う、軽みを持ちながらシックで洗練された新しい「香遣」が生まれました。